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一戔五厘の旗

今日のおすすめは花森安治『一戔五厘の旗』(暮しの手帖社)です。
亡くなるまで編集長だった「暮しの手帖」に自ら書いたエッセイから、29編を選んだ一冊です。
表題にもある「一戔五厘」は、戦時中召集に使われた葉書一枚の値段です。
「貴様らの代りは 一戔五厘で来るぞ とどなられながら 
 一戔五厘は戦場をくたくたになって歩いた へとへとになって眠った」
“どなられ”たのは、著者自身の体験です。
人を人とも思わぬ愚かな戦争を戦地で、戻っては大空襲で体験した著者が、
敗戦後20年たって、今度は大企業を助けるために公害を見逃す政治の姿を見ます。
「今度こそ ぼくらは言う
 困まることを 困まるとはっきり言う(中略)
 よろしい 一戔五厘が今は七円だ 
 七円のハガキに困まることをはっきり書いて出す
 何通でも じぶんの言葉で はっきり書く」(「見よぼくら一戔五厘の旗」)
こんなことをもうくり返すべきでないと自分は言い続ける
という著者の決意表明のように見えます。

広告を一切入れずに、身近で使う電化製品などの商品テストを
自前でやり続けたことも、
この決意からつながっているものと思います。
「<商品テスト>は、じつは、生産者のためのものである。
 生産者に、いいものだけを作ってもらうための、
 もっとも有効な方法なのである」(「商品テスト入門」)
そのために、実験には正確を期し、
妥協がなかったことがこの一篇を読むとよくわかります。

「8分間の空白」という一篇は、著者のその姿勢をさらによく表しています。
石油ストーブ火災に水をかけるのは危険という通念から、
水を使わずに被害が拡大した火災事故が多かった頃、
「暮しの手帖」誌は一軒の家を燃やしてまで水で消えることを証明しました。
ところがこれを発表する前に、さらに50回もの実験を重ねます。
もし、水で消えない例が1つでも出たらという恐れからでした。
編集者(だけでなくあらゆる仕事の人)にとって、誠実さがどれだけ大事なことであるか、
身をもって示してくれています。

29編の中には、重田なをという袋物職人のお話や、様々な主題のエッセイが入っています。
一生かかっても及ばない天才であり努力の人であった著者がそこにいてくれるようにと、
私はいつもこの本を近くに置いています。
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